想い出のディーリアスLP
私の駄文ですが、2000年を迎えて、メモリアルの意味で整理してみました。
町の古レコード店でこのようなLPを見つけたら、どうぞかわいがってあげて下さい。
誤解の無いように申し上げておきますが、東芝EMI社のレコードは、日本のディーリアス音楽普及に多大な
功績を残しています。一部に苦言を呈しましたが、それは1ファンからの
熱狂的なラブコールであると御解釈頂きたいと思います。
まだまだ、日本においてディーリアス音楽の認知度は低く、「変人の音楽」の部類を
出ないことは、コンサートの演奏項目であまり紹介されない点からも言えると思います。
もっとも、「スコアが手に入らない」現状を鑑みても、広くディーリアスの音楽が聴かれることを
切に望みます。
2000/02/11 三浦先生亡き後、空虚な冬の東京にて 市川 千尋
国内盤と輸入盤を交互に紹介しています
09月28日(火)23時27分30秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,北国のスケッチ
「北国のスケッチには何のプログラム(標題)もない。手がかりといえば、
それぞれの楽章に与えられた題名をべつとして、彼の人生観にあるように
思われる。『人間は空しい!自然だけがめぐってくる!』というのが、
しょっちゅう彼の思考に現われる要旨だった。」
−−−Eric Fenby
三浦 淳史 訳 自然を見るときに、シベリウスの交響曲4番や6番に代表されるリリカル
なアプローチと対比しうる佳作であろう。秋の空のように変わりやすい
旋律、全てが音の散文詩を読むように流れてゆく。音の色彩感は、まるで
バックスの作品のようだ。ディーリアスとしては斬新な表現である。
シベリウスの作品が音の無駄な部分をそぎ落とした水墨画だとすれば、
ディーリアスの作品は、音の色彩や旋律のピースを集めた大きなジグソー
パズルのようなものではないだろうか。 録音は1974年 東芝EMIの発売(1977年)帯には、こうある
「グローヴズ豊かな円熟を迎えました。光りながら過ぎてゆく美しき
ディーリアス。」 ・・・ ノーコメントだ。
北国のスケッチ 生命の踊り/夏の歌 サー・チャールズ・グローヴス/ロイヤルpo.
東芝EMI EAC-80351
想い出のディーリアスLP その10
09月25日(土)00時42分05秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,ディーリアス ヴァイオリンソナタ
枯れた幽玄美 彼らの演奏は女性演奏家のパフォーマンスと異なり、決して
流暢な物とは言えない、無骨で、粗野で、それでいて何より
心のこもったパフォーマンスである。この作品の全てを知って
いるからだ。このラインナップがCDリストに無い。至極残念
である。全ての演奏家に伝えたいディーリアスの全てがある。
私的な話で恐縮だが、私の初めて手にしたディーリアスの
ヴァイオリンソナタがこれであった。聴き込むうち、様々な
旋律は全て関連しており、壮大なタペストリーを形作っている
ことを知った。フェンビー氏のピアノは実にメロディアスで
あり、彼につけるメニューインは大変だったであろう。それで
いて、メニューイン独自の世界は捨てていない。喧嘩もあった
ろう・・彼らデュオの作る幽玄の能舞台で、シテとワキの舞いは
実に爽やかに我々の胸にせまる。 LITTLE の盤と比較?それは全く無意味なことである。例えば
前者が素晴らしい歌手の歌であるなら、後者は年老いた母の歌う
子守歌のようなものだから・・・。
YEHUDI MENUHIN / ERIC FENBY DELIUS The Three
Viorin Sonatas EMI ASD 3864
想い出のディーリアスLP その9
09月15日(水)00時23分24秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,ディーリアス「人生のミサ」
国内盤 発売は1976年かと思われる。東芝EMIが世に問うた記念すべき
国内盤「人生のミサ」。レコード芸術誌の推薦盤となり、高く評価
されながらも、すぐに廃盤となってしまった。もちろんグローヴスの
不朽の録音。「ディーリアスは、『人生のミサ』において、現世のための
ミサ曲を書いたのだ。ニーチェの思想の底にある『生への絶対的肯定』
のために”ミサ”を捧げたのである」と、三浦先生の語り口も熱い。
日本初演は1976年9月15日、山口貴指揮フィルハーモニー合唱団
(東京厚生年金会館)だそうで、ちょうど23年前のことである。
23年前、時代の不安と期待の間で、我々はこの作品に出会った。
「人間は無だが、自然は永久に回帰する」というディーリアスの言葉は
翻って物質文明を享受している私たちに空しく響いてしまうのだろうか。
この作品が国内盤だった当時は、私たちを育んでくれた自然への畏怖と
憧れがあり。私たちはもっと真摯に人生の節目を、生や死を見つめていた
はずだ。そして、様々な困難に直面しても、したたかに生きていく知恵と
工夫、そして何よりも他人に対する思いやりがあった筈である。
ディーリアスのメッセージは、現在の私たちに実にタイムリーだ。
彼の世界の魅力は、ノスタルジアだけではなく、現在における普遍的
な真理の問いかけにあると言えよう。
「人生のミサ」 東芝EMI EAC-80420〜21
Sir Charles Groves London Philharmonic Choir
& Orchestra
想い出のディーリアスLP その8
09月03日(金)22時45分16秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,ピアノ協奏曲
今から20年近く前、学生の時、様々なディーリアスの作品を集めていた。
そして、ただ感動していた私がある。しかし、ディーリアスのピアノ協奏曲
だけはなかなか見つからなかった。やっととあるレコード店(石丸か神田の富士
レコード店か忘れた)で偶然手に入れた。嬉しかった。
MM型のカートリッジを静かに降ろす・・初めての音楽が小さな部屋に広がった、
それは、昔好きだったラフマニノフの作品よりも、甘く、切なく、それでいて
ディーリアスさを失わない新しい音楽だった。流れる音楽に過去の色々なことが
オーバーラップしてくる、辛いこと、悲しいこと・・私は静かに泣いていた。
録音は悪いものの、ブルムは一生懸命弾いている・・それは我々にも痛いほど
伝わってくる。ある意味でこれほど暖かい演奏は無いように思われる。
現在の定盤は フォルケ/デル・マーだが、大人しい後者に比べやや荒削りな
面はあるものの、全くひけをとらない演奏だということが今聴き直してみて感
じている。1978年、米サミットの発売。1970年代の録音と思われる。
その後、「ディーリアスの音楽」Volume2 の中の
BETTY BEECHAM/R.P.O/ BEECHAM指揮(1946年)の盤を知ることになるのだが、この盤の歴史的
価値についてはいずれかの機会に委ねよう。
SUMMIT SUM 5088 ELGAR:Pomp and Circumstance
March BATH:Cornish Rhapsody ADDINSELL:Warsaw
Concerto DELIUS:Concert in C Minor for Piano
HERBERT BLUM/Piano HANBURG SYMPHONY ORCHESTRA
WALTHER JERGENS/Conductor
想い出のディーリアスLP その7
09月03日(金)11時20分17秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,ディーリアスと映像
J・カーディフ氏が偉大なカメラマンであることは、否定できない事実であろう。
映画「赤い靴」で見せたカメラ・ワークは、未だ私の網膜に焼き付いている。
折しも1991年、レーザー・ディスクの開発はCDの開発と共に「革命」と
言われ、メーカーの意気込みも大層なものがあった。バブル時期とも重なり羽振り
の良かった東芝EMI社は、イメージソース開発の一環としてJ・カーディフ氏に
当ディスクの制作を依頼、氏より快諾の快挙を得た。
こういう作品は、例えば、スポーツ・クラブのリクライニング・チェアに腰掛けながら
運動とサウナの後、ビールでも飲みながら「綺麗な風景だな」などど言いつつ見るのが
相場の所だ。この作品の中で、「夏の歌」があるが、映像は何とクリケットに興ずる
人々を扱っている。ディーリアンなら、この作品に対する思い入れも大層なものがあろう。
それ以外にも、「海流」か何かで広い海を低回する一羽の鴎を思い描く所が、餌付け
に集まる無数の海鳥を見せられれば興ざめもいいところだ。
J・カーディフ氏の演出が悪いと言うことではない。それだけディーリアスの音楽は
我々の経験や、イメージの中に深く根を下ろしているのであり、固定化したイメージ
で考えるのは難しいということである。三浦先生の「ディーリアスを初めて聴かれる
人が羨ましい」というキャッチ・コピーが付いているが、「初めての人以外はどうも
・・」と言われているようで、深読みすると実に興味深い。
レーザディスク ディーリアス管弦楽名曲集 春初めてのカッコウを聞いて
1、夜明け前の歌 2、春初めてのカッコウを聞いて
3、河の上の夏の夜 4、楽園への道 5、夏の歌
6、日没の歌 バルビローリ指揮、ハレ管弦楽団他
J・カーディフ 映像 東芝EMI TOLW-3612
想い出のディーリアスLP その6
09月01日(水)23時05分26秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,フルートのディーリアス
以前にディーリアスのオルガンCDをご紹介したことがあるが、繊細かつ華麗な
フルートによるディーリアス・アルバムがあった。録音は1979年で、Fenby氏も
まだ活発に録音活動を行っていた頃である。side
one のフルートによる Lullaby for a modern
baby の繊細さは、能の幽玄な世界を思い起こさせる逸品である。
Fenby氏の手による side two の Sonata for
String Orchestra は、特に "Late Swallows"
の素晴らしさが秀でており、Fenby氏の真摯な人生を見るにつけ、感動を
押さえることが出来ない。飾らず、さりげなく過ぎて行く旋律、あんなに数多くの
想い出があったにもかかわらず・・。−妙に歌わせることをしない−それが逆の効果
となり、経験を共有している筈である我々ディーリアンの胸に迫る。
Elena Duran は当時若かったものの、巨匠の前で怯まず、のびのびと演奏している。
Eric Fenby conducts MUSIC OF DELIUS arranged
by Eric Fenby Elena Duran flute / Bournemouth
Sinfonietta EMI ASD 3688 side one 1 Dance(arr.for
flute and strings) 2 La Calinda 3 Air and
dance 4 Five little pieces Mazurka for a
little girl Waltz for a little girl Waltz
Lullaby for a modern baby Toccata side two
1 Sonata for String Orchestra
想い出のディーリアスLP その5
08月29日(日)22時26分28秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,マリナーのディーリアス
「四季」や「調和の幻想」のマリナー/アカデミーがディーリアスを演奏するのは
そんなに不自然な話ではなかった。演奏も実にシンプルであり、しかも”楽園の道”の
冒頭を聴けば、彼の細やかな演出はディーリアスの音楽の一音一音を大切に扱っている
ことで成り立つことが分かった。優秀な録音であることも幸いし、このアルバムは私の
記憶に永くとどまっている。 発売は1979年、帯に「やすらぎ」と付け、ジャケットも美しい写真を使用する・・
折しも、日本人が高度成長時代に疲れ、様々な歪みが露呈してきた頃、このアルバムも
「やすらぎ」でディーリアスの音楽を売らねばならない背景があった。あくまでも
環境音楽的な位置づけは「ディーリアス=自然と愛の音楽」というよく分からない
メッセージからも読みとれる。 「一流の仕上げが、どの曲にも夜光虫のような光を放ちながら、わたしたち聴き手を、
ディーリアスの、無限のノスタルジアの世界にひきこんでゆく。」−夜光虫の光−
三浦先生のライナーノートは実に素晴らしい。
SIDE A 1、楽園への道 2、間奏曲とセレナード
3、日の出前の歌 4、間奏曲(フェニモアとゲルダ)
SIDE B 1、春を告げるカッコウ 2、河の上の夏の夜
3、エアーとダンス 4、ラ・カリンダ アカデミー室内管弦楽団/ネヴィル・マリナー
キング SLA 1214
想い出のディーリアスLP その4
, 08月25日(水)23時11分36秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,ディーリアスとリリー
以前、「斉諧生音盤志」の斉諧生さんとメールを交わす機会がありました。
斉諧生さんは、LILI BOULANGER のサイトを作られていて、私の所有するLP
の中で、ディーリアスとリリーの作品集があったので参考にと私からメールさせて頂きました。
以下は私のメールから
>私がリリーの作品を知ったのは、以下のLPからです。
> DELIUS BOULANGER PIANO AND CHAMBER MUSIC
(LP)
> UNICORN-KANCHANA DKP 9021
> side 1(Delius)
> 1.'Delius as I Knew Him' read by Dr.Fenby
> 2.Cello Sonata
> 3.Three Piano Preludes
> 4.Zum Carnival
>
> side 2(Lili)
> 1.D'un Matin de Printemps
> 2.D'un Soir Triste
> 3.D'un Vieux Jardin
> 4.D'un Jardin Clair
> 5.Nocturne
> 6.Cortege
> 7.Harmonies du Soir
> Eric Parkin Piano
> Barry Griffiths Violin
>
>リリーの写真が若々しく、聡明で印象に残っていました。
>(有名な写真なんでしょうね)
>ライナー・ノートを見ると若きリリーとディーリアスには
>様々な交流があったようですが、この件については
>もう少し私も調べてみたいと思います。
>"Pie Jesu" は、そのあまりの清明さにより、私は「怖い」
>と感じました。これはわたしのサイトの中で書いたことが
>あります。ディーリアスとの出会いが彼女の音楽にどのような
>影響を及ぼしたのか、それはプラスだったのか、マイナスだった
>のかを含めても知りたいところです。(答えが出るべくも
>ないでしょうが・・・。)「怖い」ほど清明な彼女の
>感覚を、死の直前まで老練な技法が支配していたのであれば
>残念なことであります。私がそこまで言うのは、ディーリアス
>の音楽はそれほど複雑かつ難解な面もあり、このサイトを
>行う上で彼の作品を多く聴き返してみて改めて思うからです。
>
>何か彼女がギョーム・ルクーの生まれ変わりの
>ような気がして、本当に惜しまれる気持ちで一杯です。
老練な技法とは、言い過ぎだったかもしれませんが。有る意味では言い得て
いると思います。 斉諧生さんのサイトは http://plaza10.mbn.or.jp/~seikaisei/
です
想い出のディーリアスLP その3
08月22日(日)12時57分48秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,夏の夜 水の上にて歌える
1977年、三浦淳史先生の解説付きで出されたこのLPは、ジャケットの斬新さも
さることながら、ディーリアスと万葉の世界を結びつけたものとして記憶に残ります。
帯(死語)のコメントには「グリーンスリーブズ以上のさわやかさ...」の文字が。
「自然を愛し、自然とともに生きた”田園作曲家”が美しいメロディーに託して高らかに
謳いあげた自然賛歌!」とも書かれており、なにか場違いな感はあるものの、当時は
実に新鮮な音楽として堪能したものです。
夏の夜 水の上にて歌える ルイス・ハルシー・シンガース
キング SLA 1130
想い出のディーリアスLP その2
08月12日(木)22時19分40秒,市川 千尋,chihiro@mxj.mesh.ne.jp,THE FENBY LEGACY MUSIC OF DELIUS
ここに後世に伝える遺産があります。私がこのLPを手にしてから、大切に
大切にしています。FENBY氏の全てがこのLPに凝縮されていて、まず一番に
感じとれるのは、彼の誠実さでしょう。三浦先生も絶賛したFENBY氏のLPは
残念ながらCDでは発売されていないようです。ジャケットも素晴らしい出来
です。ディーリアスの好きだった海・・「海流」が思い出されます。
SIDE 1 SONGS OF FAREWELL SIDE 2 IDYLL FANTASTIC
DANCE SIDE 3 A SONG OF SUMMER CYNARA IRMELIN
PRELUDE SIDE 4 A LATE LARK LA CALINDA CAPRICE
AND ELEGY TWO AQUARELLES UK DKP 9008/9
想い出のディーリアスLP